本邦初の「戊辰戦史」120年ぶりの初復刻!
戊辰戦史 全2冊(全12巻合本)
  川崎 三郎(川崎紫山)
  マツノ書店 復刻版
   2012年刊行 A5判 並製 計1464頁 パンフレットPDF(内容見本あり)
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『戊辰戦史』 略目次
第一巻
・ 大政奉還の奏聞
・ 米艦来航、外交の開始、幕府の対外糊塗策
・ 水戸烈公及び東湖の対外政策
・ 条約締結、堀田政略 井伊政略
・ 尊王党主義の論旨
・ 開国党主義の論旨
・ 尊王派の運動及びその頓挫
・ 桜田要撃

第二巻
・ 公武合体論
・ 寺田屋騒動
・ 将軍の上洛、親征の中止
・ 蛤御門の変
・ 大和の乱
・ 生麦案件、鹿児島事変
・ 筑波の乱
・ 征長の役、再征の役
・ 幕府の危機
 【付録】 馬関の役
 1長藩の戦備
 2長軍、米艦を砲撃す
 3長軍、仏艦を砲撃す
 4長軍、蘭艦を砲撃す
 5長軍、米艦を激撃す
 6長軍仏艦を激撃す
 7英艦、長藩の砲撃を詰る
 8同盟艦隊、長軍を撃つ
 【付録】 防長の役
 1幕府の戦備及び長藩の戦備
 2大島方面戦闘
 3尾瀬川方面戦闘
 4石見方面戦闘
 5小倉方面戦闘

第三巻 伏見鳥羽戦闘
・ 薩長の連合、討幕の密勅、討幕党の戦備
・ 長州処分に対する幕府の意向
・ 王政復古の大号令
・ 徳川慶喜の下坂
・ 幕軍進発の状勢
・ 官軍の戦備
・ 鳥羽方面戦闘
・ 伏見方面戦闘
・ 淀方面戦闘
・ 橋本方面戦闘
・ 幕軍敗戦の情状
・ 京都の事情及び島津久光の事
・ 伏見鳥羽戦闘の勝敗に於ける点評
 【付録】 人物小伝 徳川慶喜、三条実美、伊庭八郎、近藤勇、小原忠寛

第四巻
・ 官軍の東征
・ 慶喜公の恭順。官軍江戸城を領す
・ 遠州の勤王
・ 勝沼戦闘
・ 上野戦闘
・ 締盟各国と日本朝廷との関係
 【付録】 人物小伝 勝海舟、大久保一翁、小松帯 刀、広沢真臣、竹内棟、土方歳三

第五巻
・ 幕将の東走
・ 宇都宮方面戦闘@〜B
・ 船橋方面戦闘
・ 日光方面戦闘@〜C
・ 太田原方面戦闘@〜D
・ 会津桑名両藩の方向
・ 会津米沢両藩の方向
・ 秋田藩の勤王
・ 仙台藩の方向
 【付録】 人物評伝 小栗忠順、小栗道子、大村益 次郎、山内容堂、植原六郎左

第六巻 北越戦闘(上)
・ 東西両軍の形勢
・ 北越諸藩の会同
・ 長岡藩の方向
・ 飯山及び小出島方面の戦闘
・ 鯨波及び塚山方面の戦闘
・ 榎嶺戦闘
・ 長岡戦闘
・ 杉沢及び与板方面戦闘
・ 今町方面戦闘
・ 持立及び福島方面の戦闘
・ 土谷方面に於る戦闘
 【付録】 人物小伝 栗本鋤雲、岡本武雄

第七巻 北越戦闘(下)
・ 総督の進征
・ 長岡戦闘@〜B
・ 加茂三条方面の戦闘
・ 衝背軍、新潟を略す
・ 赤谷、金銅山、及び津川方面戦闘
・ 津川及び陣峰方面戦闘
・ 館原方面の戦闘
・ 飯寺方面の戦闘及び市川党の敗戦
 【付録】 北越戦記別録@〜C

第八巻 白河戦闘
・ 会津藩と奥羽列藩との関係
・ 奥羽列藩の連合
・ 奥羽鎮撫使の挙動
・ 白河戦闘@A
・ 棚倉戦闘
・ 海道官軍の進撃
・ 平城戦闘
・ 三春進入
・ 二本松上城の陥落
 【付録】 人物小伝 山岡鉄舟、山本帯刀、三好清房
 【付録】 北越戦記D〜F

第九巻 秋田戦闘
・ 庄内藩の士風および兵備
・ 天童城の陥落
・ 秋軍、荘内征討の形勢
・ 官軍の防備
・ 庄軍の進取、新庄城の陥落
・ 庄軍、院内及び湯沢を占領す
・ 横手城の陥落
・ 角館の烈戦
・ 三崎口方面の戦闘
・ 長浜方面の戦闘
・ 庄軍の退却
 【付録】 秋田戦記 南部征討記@〜D
 【付録】 人物小伝 中島源蔵、目時隆之進

第十巻 会津戦闘
・ 駒嶺の戦闘
・ 官軍討会の戦略
・ 会津口進撃 
・ 若松城下の烈戦
・ 官軍の連絡
・ 城兵の戦力
・ 城兵の力戦
・ 城庫の火、寺内山、木曽口の進撃
・ 城門の轟撃
・ 城兵の克捷、高田の烈戦
・ 城兵の堅守
・ 東軍の帰順
【別録】 会津戦争逸聞
 1烈女難に殉ず
 2小児節に殉ず
 3老人鐘を撞く
 4白虎隊の義勇
 5山川の剛勇
 6一門の節烈
 7河井の豪胆
 8馬場の沈勇
 9今井の苦節
 10小笠原と大庭
 11秋月の孤節
 12広沢安任小伝
 13松平容保小伝
 14松平喜徳小伝
 15婦女の操烈

第十一巻 属地戦闘
・ 庄内方面戦闘@〜B
・ 米沢藩の降伏
・ 仙台藩の降伏 
・ 津軽方面戦闘@〜D
 【付録】 人物小伝 河井継之助、伊地 知正治、 吉田大八、近藤貢、三浦権太夫、中島永胤
 【別録】 平戸藩羽州征討日記

第十二巻 函館戦闘
・ 幕軍函館に入る
・ 幕軍松前を陥れる
・ 幕軍江刺及び舘を占領す
・ 幕軍書を朝廷に上る
・ 宮古の海戦
・ 木古内、二股の烈戦
・ 官軍松前を復す
・ 函館の激戦 上中下
・ 官軍帰順を勧告す
・ 幕軍の帰順
・ 大鳥、人見、榎本
 【別録】 詔勅


 膨大な史料に裏打ちされた幕末維新史
  幕末史研究家 西澤朱実
 戦記にして通史、各論にして総論――。川崎紫山の『戊辰戦史』をひとことで表現するなら、そうした言葉が浮かんで来ることだろう。
 実際、戊辰戦争を表題に冠する同時代の書籍の多くは、藩や個人など従軍主体別に編まれ、詳細ではあるが地域的・時間的に限定された断片的な各論の印象が強かった。それらに対し本書では、慶応四年の鳥羽伏見から翌年の箱館まで各地で展開された戦闘を網羅しつつ、ペリー来航に遡り国内情勢の変化を丁寧に辿ることで、戊辰戦争という近代日本の一大ターニングポイントが出来(しゆつたい)する必然性を“前史”である“幕末”の中に位置づけ、地域的・時間的に連続し重層した歴史を活写する。維新史への総括的アプローチが乏しい時代に、戊辰戦争のみならず、激動の一時代を実質1040ページ(付録を除く)に集約した才腕と先見性は刮目すべきだろう。表題からありがちな内容を連想すると、良い意味で裏切られる本である。

 著者の川崎紫山は元治元年、水戸藩士=川崎長蔵胤興の三男に生まれた。本名は三郎胤贇(たねよし)。旧藩校弘道館の伝統を継ぐ私塾=自強館に学び、十七歳の頃上京して新聞記者となる。日本が東洋の盟主となり西欧列強に対峙すべしとするアジア主義者で、のち頭山(とうやま)満(みつる)とともに明治三四年の黒竜会創設に参加。『世界百傑伝』や『訳註大日本史』の執筆、『西南記伝』『公爵山県有朋伝』『大日本憲政史』等の編纂員として知られ、昭和十八年に齢八十で没するまでに著書・編纂書合わせて五十点以上をものした健筆家である。

 『戊辰戦争』は、紫山が三十歳の明治二六年十二月から翌年七月にかけ、全十二編の冊子形式で刊行された。一・二編が王政復古までの歴史的トピックをまとめた幕末史、第三編以降が戊辰戦争で、大小六十を超える戦闘が地域別・時系列に記録されている。

 著者が水戸藩出身でアジア主義者でジャーナリスト──というと、思想的にかなり偏ったイメージが先行しそうだが、本書は全編が膨大な量の史料に依拠しており、それ故に記述の正確さ・客観性が保たれていると言ってよいだろう。原文の引用も多く、たとえば「開国党主義ノ論旨」の項では、該当する五三ページのうち、佐久間象山と横井小楠の開国論の引用にそれぞれ二二ページ・十八ページが費やされ、読み進めるのに苦労するほどである。また天誅組の大和挙兵では「大和日記」、桜田事変の項では襲撃者の一人=蓮田市五郎が自訴後に事件の概要を認(したた)めた手紙といったように、当事者の手記を含む第一級史料がふんだんにちりばめられているのも本書の魅力である。

 主題である戊辰戦争の各巻においては、『太政官日誌』所収の戦報がほぼ網羅され、『復古記』の原史料でもある諸家の記録類と合わせて、それぞれの戦いの経過と帰結、死傷者・捕虜の氏名や時には分捕り品に至るまでが、簡潔かつ遺漏なく記されている。同時に本書は、限られた紙幅の中でも船橋戦争のような単発で知名度の低い戦闘を割愛せず、馬場三九郎・河井平吉ら諸藩士の活躍や、「実戦ニ臨ミタルコト甚ダ尠ナシト雖トモ」遠州報国隊を特記するなど、時代の画期となった内戦の全方位的な記録を試みる。さらに付録として収載された「北越戦記」(松代藩)・「南部征討記」(秋田藩)・「平戸藩羽州征討日記」と「会津戦争逸聞」の各エピソード、幕末史を彩る二九人の小伝がそれぞれに本編を補い、戊辰戦争とその時代をより多面的・立体的に読み解く鍵を示唆している。

 その全編を貫くのは水戸藩出身者としての視線と矜恃であると言ってよいだろう。本書では旧幕軍を「東軍」「幕軍」と表記し、徳川慶喜には「公」の尊称を付す。将軍個人と合議政体としての「幕府」を明確に区別し、「幕府」の糊塗・姑息を痛烈に批判する筆勢は御三家たる水戸藩の立ち位置そのものである。一方で、同藩が時代を動かす思想的原点でありながら、元治の内訌で疲弊し遂に維新の表舞台に立つことがなかったように、紫山の視線もまた勝者・敗者のいずれでもなく、まして完全な第三者のそれでもない。が、当事者としての熱を湛(たた)えながら正か否かあるいは官か賊かに分極化しないその視線こそが、奢りと恩讐の束縛を超えて歴史と向き合い、断片化する維新史を集約へと転化し得た最大のツールであり、それにより生成された連続する時間の堆積を前にして初めて、変化する思想と行動の壮大な集束過程としての“維新”の全容を認識することが可能になったと言えるだろう。

 なお、敢えて本書の難点を挙げるとすれば、内容が多岐にわたる分、当然ながらそれぞれの戦記本に比べて記述の簡略さが否めないことだろうか。読者の中には物足りなさを感じる向きもあるかもしれないが、むしろ常に戻るべき俯瞰の場所として、詳細な各論の中心に置いておきたい本のひとつである。

 余談ながら、比較的客観的な記述に終始する著者が、庄内戦の冒頭では歴史好きの一個人に戻り、常勝軍を率いた大隊長=松平甚三郎と酒井吉之丞(玄蕃)、家老の松平権十郎を絶賛する様子が微笑ましい。勢い余って甚三郎と吉之丞の字(あざな)を逆に記す筆の滑りはご愛敬である。それにしても、庄内戦を記した金字塔『戊辰庄内戦争録』の刊行が二九年であることを考えれば、果たして紫山の典拠は何であったのか…。また人物小伝では赤報隊の金原忠蔵が本名の「竹内棟(むなき)(廉太郎)」で収録されており、人選の基準が気になるところである。そうした出典探しや謎解きも、本書を読む楽しみの一つかもしれない。

 今回、『戊辰戦史』はマツノの復刻希望アンケートにおいて圧倒的な人気だったと聞く。震災の痛ましい記憶が未だ癒えぬ昨今、本書の復刻が細くとも一条の光をもたらしてくれることを心から祈る次第である。
(本書パンフレットより)