維新の陰に女あり・・。本邦初の「女の維新史」
勤王芸者
小川煙村著
A5判260頁並製函入
(函) (本体)
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「女」の維新史を推薦する
奈良本辰也

「男」のために書かれた維新史の本は多いが「女」のためとして書かれた本は、少ない。という文章が冒頭に掲げられて『維新侠艶録』という本が出版されたことがある。昭和3年に出た井上月翁という人の著書だ。
敗戦以来、女性の地位は大きく上がり、男性史ならぬ女性史が人々の注目を浴ぴてきた。しかし、その女性史も、こと維新史に関する限り従である。私もずいぶん小説やエッセイなどで、維新史を扱ってきたが、この『維新侠艶録』のように、それを突きつけられると、やはり気になるのである。

その『維新侠艶録』より十八年も前に刊行され、著者の井筒月翁が大いに参考にしたと思われるのが、このたぴ復刻される『勤王芸者』である。
防長出身の志士は、さすがに多い。桂小五郎・高杉音作・井上開多・久坂玄瑞・晶川弥二郎に至るまで、京都などで芸者の膝枕に一服のやすらぎを与えられた。『勤王芸者』は、そのことごとくを明らかにしている。もちろんそれは恥ずかしいことではない。尊皇攘夷のはげしい政治がなせる
業なのだ。

この著者の語り口は、いかにも時代物を思い出させる親しみやすい口調である。私は以前、得富太郎氏の『幕末防長勤王史談』全十巻を読んだことがあるが、その語り目とどこか相通じるようなものがあった。いや語り口だけではない。全体の構成にもそれを感じさせるものがあった。
さて、本書の筋書きは、勤王芸者としての君尾という女性が中心となって展開される。まさに女から見た椎新史である。

でも、芸者の活動範囲は限られている。祇園に納まっている場合はそれでよいが、それだけでは面自くない。その彼女に他から口がかかって、外に出てゆくこともある。話はそこから発展する。九条家に食い込んで権勢をふるっていた鳥田左近や、新撰組の近藤勇なども、そうした一人であった。佐幕派といわれる連中が、彼女の美貌と才知に目を付けこれを近くに呼ぴ寄せるのだ。

彼女としても、それを拒むことはできない。そこに新たな展開が考えられるのであるが、それも幕末史の一局面である。いや重要な一場面と言ってもよい。そうした幕末史の裏面を知ることができるのも、この一書であろう。初めて刊行された「女の維新史」として広く江潮に推薦したい。



目次抄
復刻版への序文(奈良本辰也)
・憂国の志士皆能く遊ぶ
・高杉井上に切腹を教へる
・御殿山の焼討
・井上聞多の和歌一首
・国の為めには貞操も破れ
・世にも名高き寺田屋騒動
・久坂玄瑞の風流情事
・禍の基は女色から
・勤王志士の襲撃
・島田左近の最後
・洋行が出来ねば切腹ぢや
・井上伊藤洋行の苦心
・井上聞多暗殺に逢ふ
・足利尊氏の首を斬る
・君尾近藤勇に口説かる
・長藩士と新撰組
・鎗の穂先の露と消ゆるか
・鉄扇で横面を殴る
・久坂玄瑞の恋の発端
・易者久坂の一身を予言す
・久坂の一喝、井上の箒
・島原太夫と新撰組
・大鋸を振廻す新撰組
・長州勢退京の由来
・薩人黒谷の会津を襲ふ
・薩摩武士の切腹
・長州藩の憤慨
・久坂よりお辰に与ふる手紙
・池田屋騒動の顛末
・長州大挙して来る
・蛤御門の激戦
・久坂寺島のたち腹
・長州の落武者祇園町へ来る
・義士天王山に死す
・桂小五郎と芸妓幾松
・伊藤俊介出雲の神となる
・其相棒は広沢兵助
・西郷隆盛と豚姫
・南洲翁に肱鉄砲を食はす女
・老いて楽する勤王芸妓