大久保利通
 松原 致遠
 マツノ書店 復刻版 *原本は明治45年
   2003年刊行 A5判 上製 函入 338頁 パンフレットPDF(内容見本あり)
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『大久保利通』  略目次
【維新前の公】
第一章 少年時代(石原きち子、山田すま子、石原みね子)
山陽の所謂健児社 少年時代の遊戯 子供の頃のあばれ方 無類のきかんぼう 三里の山登り 鳳徳先生 少年時代の友人

第二章 青年時代及び藩政時代
@松村淳蔵 陽明学を学ぶ 血気時代の公 参禅 福昌寺 ハイカラの大西郷 斉彬の信任 夷人は膝が曲らぬ 維新史上の秘事 バークス公に尽す 藩政大改革 三島総監が地頭 
A石原きち子 山田すま子 石原みね子 高崎くづれ 父君遠島 父君遠島中の苦難 三両の借用証 家政の困難と国事の奔走 当時の勤王党 碁を以て藩侯に近づく 薩藩勤王の萌芽 若い時からの派手嫌ひ 天下取りの人相 西郷の威望 斉彬公の遺志全し 三日間の神仏礼拝

第三章 国事奔走時代
@錦の御旗 山本復一 私に錦旗を作る 蟄居中の岩倉公 岩倉暗殺の密謀 両雄肝謄相照 戊辰戦争中の御所 
A東湖・南洲・甲東 米田虎雄 薩藩継嗣問題 斉彬公の遠見 西郷殉死の志 一見して異相の人 痩せぎすな大西郷 大事を語るべき者十三人 
B西郷と偶死せんとす 松村淳蔵 西郷党と中山党偶し違へて死なう

【維新後の公】
第一章 内治の苦心
@内治の方針 河瀬秀治 民業の発達を主とす
A三百万円 速水堅曹 公と五代友厚 ピシリと叱られる 既に勅が出た! 各省の大改革 秘中の秘事
B殖産興業 佐々木長淳 公洋行後の勧業熱 専門家以上 先見の明 情理並び到る 公死後の殖産興業
C公の格言 高橋新吉 過ぎたるは及ばざるに如かず 一利を興すは一害を除くに如かず 公容易に書かず 公の遺志

第二章 公の忠誠
米田虎雄 初めて断髪 元田永孚を推薦す

第三章 公の威望
千阪高雅 黒田伯夫人蹴殺し事件 岩倉邸の内閣会議 大木司法卿は否認 大久保の一言 群議摺服

第四章 部下に対する公
@千阪高雅 藩閥心なし 私情に殉ぜず 前原一誠の乱の際 どうも久しかつた 伊藤侯感涙を流す 
A高橋新吉 礼儀の正しかりし人 故伊藤侯の実話 山本大将の閉口 寡黙にして峻厳 『それだけですか』 無駄口は言はぬ
B河瀬秀治 大久保内務卿と伊藤内務卿 珍しき立腹

第五章 欧米巡遊中の公
@久米邦武 伊藤副使葉巻煙草好む ニコニコ笑ひ 公の皮肉 生涯の珍事 公の感慨 引退の志 仏国大統領感服す 
A佐藤進 衣冠束帯 静閑の一室に起居 一個の髑髏 公の健康診断 
B田辺蓮舟 規則の如き化粧 黙つて浴し黙つて帰へる

第六章 佐賀陣中の公
米田虎雄 自ら出征 古荘嘉門 公の先見肥後に事無からしむ 弾雨の中を平然として行く 公の沈勇 近衛兵の暴動 朝臣中第一の沈勇 従容として死生の間を行く

第七章 北京談判中の公
@小牧昌業 北京談判当時の随行者 北京談判の起因 公の旅館 外交談判の調子 両弁の便法 公の要求 大事来りて顔色変せず 英公使の仲裁 北京条約 自ら大事に任ずる力 公の冗談口 公の詩 台湾行 国旗を掲げて公を迎ふ 
A田辺蓮舟 対米国問題 大臣の威重と器局

第八章 木戸と大久保
@河瀬秀治 薩長連合の楔子 三條岩倉との関係 二人の公明正大 両雄の間柄 征台論に於ける両公の反目 木戸憤憂す 二人の扞格 質素なる当時の生活 後進付随す 木戸の憤死 国家の中心大久保公に移る
A佐藤進 バラツク病院の嚆矢 大久保公の威容 行在所の光景

第九章 南洲と甲東
@両雄の心事 高島靹之助 当年の紀尾井町 川路大警視泣く 南洲の徳 恐るべき誤解 大西郷の書を懐にして死す 付度の出来ぬ両雄の交情 西郷征韓論の心事 おいは知らん A西南役時代 松平正直 英雄の心事 此誠心ありてこそ国家の柱石 
B大西郷との交情 牧野伸顕 大西郷との友情大西郷は曠世の英雄 征韓論後の両雄 西郷の心事を知るはおれ丈だ 胸中無限の感
C西郷との情 誼千阪高 雅西郷の出動を信ぜず 公の感謝 死後の遺産七十五円

【大久保公雑話】 
第一章 公と家庭教育
@牧野伸顕 非常の子煩悩 会食と碁が娯しみ 大真面目な人 公と農科大学
A大久保利武 家庭に於ける公 晩餐時の団簗 令妹に百両宛遣る 公の書簡

第二章 教育の苦心 高橋新吉 子息の教育に腐心 牧野男の少年時代 子女皆人物となる 家庭の平生 始めて泣く
第三章 故公雑話 石原きち子 山田すま子 石原みね子 父君と母君 朝風呂 喘息が持病 大の好物 蕪の三杯漬 近衛公との打合 手紙の書き振り 大抵洋服

【大久保公論】
第一章 新日本の創設者 大隈重信 
天成の偉器 青年時代の境遇 阿部伊勢守の感化 西郷と久光との関係 岩倉と三條との関係 薩長の関係 二十年間の大苦辛 僅かに八ヶ月志を舒べて斃る

第二章 明治年間唯一の大宰相 林董 
明治唯一の大宰相 其人直に国家の柱石新国家の建設

付録 大久保公年表

補遺編
大久保公 昵近諸家の実話 大久保公懐旧談 前島密 大久保公雑話 松村淳蔵 清廉なる公 千坂高雅 大久保公と伊藤公 速水堅曹 大久保公雑話・洋行中の公 久米邦武 友誼に篤き公 千坂高雅 大久保公余談 小牧昌業 公の家庭教育 牧野伸顕
 解説
談話者の経歴 山田すま、石原みね、松村淳蔵、山本復一、米田虎雄、前島密、河瀬秀治、速見堅曹、高橋新吉、千坂高雅、久米邦武、佐藤進、田辺蓮舟、小牧昌業、高島靹之助、松平正直、牧野伸顕、大久保利武、大隈重信、林董



 本書はまさに唯一の「実話大久保利通伝」である
     大久保 利謙
 本書は、大久保利通関係の文献として、まず他にかけがえのないといってよい価値をもっている。というのは、大久保の生前直接親灸し、または下僚として仕えた人々、それに実妹、子息たちの近親者を編者が、一人一人歴訪して聞きとった実話、情味ゆたかな憶い出を集めたものだからである。
 この書は、『報知新聞』紙上に「大久保公」という表題で、明治四十三年の十月から四十四年の一月まで、八十回余にわたって連載されたものであるが、この明治四十三年といえば、大久保遭難の三十年後で、今日からは、もはや七十年以上の昔となるのでその頃にはまだ、大久保に生前親しく接した人々がなお沢山生存しておられた。そこでその生々しい憶い出を聞くことができた。

 本書はまさに実話大久保利通伝である。談話者が明治末年までの生存者なので、第二部「維新後の公」がぺージ数も多く、かつ充実している。とくに内務卿時代は、官僚または政治家としての大久保の人柄や姿勢がよくでていて面白い。米欧巡回中については久米邦武と田辺蓮舟、北京談判には小牧昌業など、それぞれ随員たちの生々しい実話、珍談がある。このほか三実妹、次男牧野伸顕、三男大久保利武の追懐談は、家庭人としての大久保を伝える唯一の記録といっていい。
 大久保利通に関する逸話のたぐいは、いろいろ伝えられているが、直接に接した人々の実話となると案外少ない。勝田孫弥編の『甲東逸話』(昭和三年刊)などが利用されているが、これも諸書からの寄せ集めで、本書からもかなり採録されている。それに比べると、本書はまごうことなき実話を系統的にまとめたもので、唯一の正確な実話大久保利通伝といえるものである。
 ところが、この書は明治四十五年五月、新潮社から出されたまま重版もされず久しく版を絶っている。国立国会図書館、また鹿児島県立図書館にも蔵本がなく、そのうえ古書市場にもほとんど姿を見ない文字どおり幻の本というべき希本である。今回復刻するに当って『報知新聞』掲載の「大久保公」から漏れた十一編を補遺として追加して完壁を期した。
(本書、昭和五十五年「復刻版」の補遺編より抜粋)


「明治の大宰相」の真実を明かす
    作家 桐野 作人
 幻の稀観本が復刻されると知り、胸が高鳴っているといえば、大げさに過ぎるであろうか。古書数寄では人後に落ちぬと自負する者ながらも、この本の高名にもかかわらず、これまで一度として古書市場で見かけたことがなかった。刊行されたのが明治末年と一世紀近くも前で、その後、ほとんど重版や復刻されることがなかったかららしい。
 この本は大久保甲東をよく知る家族・朋輩・同僚・部下といった人々の証言を詳しく収録したものである。たとえば、三人の実妹や子息の利武・牧野伸顕氏が青少年期や家庭人としての甲東を生き生きと語っているかと思えば、郷里の後輩の軍人高島靹之助は甲東と西郷南洲の今生の別れ際の秘話を語る。甲東の右腕で郵便事業の父として知られる前島密は紀尾井坂遭難直後の息を呑むような凄惨な現場をじつに生々しく証言する。米沢藩家老の出の官僚千坂高雅は紀尾井坂遭難後、大久保家には二万円の借金しか残っていなかったとその清廉潔白を強調するという具合である。余談ながら、千坂は黒田清隆夫人の死の疑惑についてもまことに興味深い証言を残している。なかでも白眉は、元外務大臣林董の「大久保は明治年間の唯一の大宰相」という評言で、まことに正鵠を射ていると思う。
 この本の証言者を見ると、鹿児島出身者が少なく、他藩・他県人が多いことに気づく。ことに旧幕府や「賊」とされた諸藩の人士が少なくない。ここに新国家建設のためには党派や藩閥にこだわらず公平無私を信条とした甲東の真骨頂が期せずして顕れていよう。
 私事ながら小生も薩摩産で、西郷・大久保の逸話を聞かされながら育ち、一部血肉化している。しかし、維新の両雄と称されながらも、甲東の銅像建立が南洲のそれより四十数年も遅れたことに象徴されるように、その不人気に歯がみした一人でもある。現代日本の混迷を見るにつけ、甲東の事績を振り返る必要が痛感される昨今、その実像と真実を伝える伝記の復刻を心から喜びたい。
(本書パンフレットより)