卓抜な着想、平易な文章で解く防長維新史の問題点
趣味の維新外史
 安藤 徳器
 マツノ書店 復刻版 *原本は昭和9年
   1999年刊行 A5判 上製 函入 378頁 パンフレットPDF(内容見本あり)
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『趣味の維新外史』 略目次
頼山陽をめぐる女性
梁川星巌と紅蘭女史
下田における吉田松陰
シイボルトとドオデ
御殿山外館焼打真相
幕末藩政物語
維新志士活動の資源
幕末お大名の生活
お留守居役の話
古老旅の思ひ出話
幕末の旅費と遊興費
長藩における医療制度
維新才女列傳
維新洋行縞談
維新前後の洋行犠牲者
お雇外人物語
鉄道開通物語
本邦軍靴・軍糧考軍
唐人お吉の珍文
献吉原大門の懐古
大久保利通功罪史
木戸孝允功罪史

安藤徳器ノート(其の一) 一坂太郎

 『趣昧の維新外史』の魅力
     一坂 太郎
 戦前、たった数年間だけ中央の文壇を縦横に疾走し、忽然と消えた安藤徳器という青年がいた。「歴史家」の肩書を付すべきか、あるいは「作家」「文筆家」「評論家」とするべきかは、その活動範囲があまりにも多岐にわたることから、一概には断じかねる。

 徳器は山口県岩国市の出身で、はじめ軍人になるべく陸軍士官学校(三十六期)に学び、のち志を転じて京都帝国大学で維新史を専攻したという変わり種である。二十代から三十代にかけ歴史、芸能、時事問題、中国等に関する三十冊ほどの著作を残したにもかかわらず、いまや故郷山口県の文学史上においてすら、ほとんど忘れ去られようとしている。

 ところで、長州藩主毛利家では明治初年からすでに藩政時代の膨大な史料の収集、編纂が進められていたことは、よく知られる。今日では山口県立文書館に「毛利家文庫」として架蔵されているその「宝の山」を見る時、我々は『防長回天史』などは巨大な氷山のほんの一角に過ぎないことに気づき、ただ唖然とする外はない。
 実は徳器は、戦前の一時期、東京の公爵毛利家編輯所員として「宝の山」に潜り込んだことがある。当然、「宝の山」は徳器の若々しい知的好奇心を刺激するに十分だった。
 その結果、昭和十一年に生まれたのが、『趣味の維新外史』である。毛利家編輯所蔵の文書史料や村田峰次郎ら古老の談話等を駆使しながら、人物、事件、政治、経済、医学、旅、女性、風俗等々、あらゆる切り口から長州藩維新史に追った数々の研究が、この一冊に象眼のようにはめ込まれている。
 これは、ひとりの青年学徒の「宝の山」探検記だ。だから目次を一見しただけで、歴史好きの読者なら胸の高鳴りを覚え、「読みたい!」という衝動に駆られるような本である。こんな本には、なかなか出会えるものではない。
 このたびマツノ書店から『趣味の維新外史』が復刻されるのを機に、徳器再評価の気運が地元山口県から芽生えんことを、切に祈る次第である。
(本書パンフレットより)